アクティビティをテーマにした分科会は長野県の一般社団法人白馬村観光局、志賀高原を舞台とする一般財団法人長野経済研究所、北海道の株式会社ディスティネーション十勝、神奈川県の茅ヶ崎を拠点とする一般社団法人Total Beach Sportsの代表者と、群馬県の水上を拠点にアウトドアの会社を経営するニュージーランド出身のマイク・ハリス氏、フランスと日本を行き来しながらファッションのバイヤーとして活躍する王子蘭、パスカル・ベルトラン夫妻を外国人専門家として迎えて行われた。
自然グループは冒頭の挨拶から熱くはじまった。パスカル氏からは「なぜ、長野オリンピックの話が出ないのか」と、資料の中でオリンピックの話に触れられていないことに、歴史をアピールしないのはもったいないとレガシーの重要性を語る。続くハリス氏も想定したプランが新型コロナによって進まない現状でも、「サスティナブルな視点で、地域がハッピーである状態とはどのようなものか、最終的なゴールをイメージすることを今はやるべきではないか」と熱く語りかける。観光客が戻れば考える時間などはなくなる。オーバーツーリズムの問題も起きていた地域もあり、その地域にとっての適正な顧客数、単価をサスティナブルな視点で捉えるのは今しかないと訴える。
顧客ターゲットについても「自分たちの価値観を問い直そう」と提案。同じ国の人でもバックパッカーとファミリー層では全く違う。将来、観光公害を起こらせないためにも、自分たちの価値観を明らかにし、その価値観に合うインバウンドを迎え入れる準備を今からはじめるべきだという。それができれば地元との軋轢も生まれず、リピーターになる確率も高い。様々な理由から、いまは自らを深く掘り下げる時だというのである。
事業者の中で先陣を切ったディスティネーション十勝(以下、十勝)は、地域の19の市町村が連携したDMOを核にアウトドアブランドのスノーピーク、JTB、金融機関などが参画するオール十勝で、台湾の人々をターゲットにアウトドアを軸に顧客単価の上昇を目指している。キャンプをはじめ、ラフティングやカヌー、ホーストレッキング、熱気球など、アクティビティは豊富にあり、豊かな自然を生かして、一杯500円のコーヒーを絶景で飲むことで1000円のコーヒーにするといった戦略もすでに立てている。ところが、大所帯からか地域のブランディングをはっきりと打ち出せずに、他の地域との差別化がうまくできていない、という課題がある。
こうした相談に対しハリス氏は、豊かな自然や食料自給率1000%という一次産業の強みから、「十勝は「食」の視点からブランドを磨くと、ターゲットである台湾の人々にもっと響き、特長であるアウトドアの軸が生きるのではないか」とアドバイスする。また、地域内での連携に苦労してブランディングに手間取っていることも、地域のブランドが浸透するには時間がかかるものであり、地域の人たちと作りこんでいく長いプロセスが地元にブランドを根付かせる上でプラスになると、良い側面を話した。
もうひとつの課題が外国語を話せるガイド不足の問題だ。これについては語学力さえあれば解決する問題ではないが、地域に住むALT(外国語指導助手)など、地域に愛着があり日本語もできる人を紹介して、うまくいった事例をハリス氏が紹介。王子氏もインターナショナルスクールの生徒がインターン先を探すことから、学生を活用する案を出した。
ターゲットとなる台湾にはスノーピークの店舗もあるため、十勝でのアウトドア体験次第では販売にもつながる。これから注目されそうなコンテンツも多く、水風呂代わりに湖の氷を割って入るサウナは人気が高いという。関係を深めリピーターが増えることで十勝を台湾の人たちにとっての第2の故郷にするプランもある。NHKの朝の連続ドラマ「なつぞら」が台湾で現在放映中というのも後押しになりそうだ。
長野経済研究所を中核とする志賀高原は、パウダースノーと地獄谷野猿公苑の温泉に浸かるニホンザルが人気のエリア。本プロジェクトではウィンターシーズンのコンテンツ強化をテーマにしている。台湾、オーストラリアをターゲットに長期滞在、消費拡大を目指し、バックカントリースキーと18のスキー場をめぐるガイド付きツアーなど新たな商品をつくっている。ただ、バックカントリースキーは同じ県内の白馬村も強化しており、長年の蓄積のある白馬と比べると心もとない。
この点についてハリス氏は「志賀高原のバックカントリーを初心者向けにすることで、ターゲットを住み分ければよいのでは」と提案する。また、「バックカントリーの需要はオーストラリアの大人がターゲット。別行動の子どもたちにはちゃんとしたレッスンやキッズ用のスノーアクティビティが必要です。また、台湾の人たちはスキーをしますが親世代はあまり滑らないので、心地よく待機できる場所づくりが大事」と、ひとつの商品をつくっても、運用だけでなく文化の違いを含めた派生商品の必要性を指摘した。
話が冬のアクティビティに集中する中、パスカル氏は雪のないシーズンでのマウンテンバイクの可能性について質問。冬のアクティビティを軸にしているため、通年での話はでてこなかったが、稼ぐという観点からいけば閑散期はつくりたくない。しかもハリス氏からの情報では、海外では温暖化で雪が少なくなることを見越して、スキー場側もマウンテンバイクなどの夏のアクティビティに力を入れ、売り上げが冬を上回るところもあるという。そのためにもワーケーションや通年の取り組み、他地域との連携などが今後重要になるという話が出た。住み分けについてはターゲットにも当てはまる。冬のシーズンでいえば欧米豪はクリスマスから1月まで、中華圏は1月末から2月の旧正月、タイの旧正月は4月という風にバケーションがずれているため、需要の谷間をつくらないプロモーションをもっと意識してはどうかという話があがった。
3番手の白馬村観光局は、日本の中でも2002年くらいからインバウンド誘致を行い実績もある。今回の事業でも欧米を中心に盛り上がるバックカントリースキーで高単価の顧客層を獲得し地域全体の収益拡大を目指している。ただ、課題もある。
その一つがスキー場のパトロール人材の不足。欧米のスキー場であればリフトからアクセスできるところで安全にバックカントリースキーを楽しめるが、日本で同じことを行えば新たに火薬を使って人工的に雪崩を起こす高度なパトロール人材が必要になる。課題は他にもある。外国人のガイドや外国人が経営する宿泊施設に比べて、日本人のガイド、古くからやってきた地元の宿が稼げていない。こうした課題に対しハリス氏は、「パトロールの問題は給料が安いこと。技術を上げれば給料で応えていくべきで、そのためにもリフト券の値上げは必要。海外に比べ安全面のコストは変わらないので値上げは必要」という。また、シーズンだけ稼いで帰る宿泊業者などがいることから、「地元にとってサスティナビリティにはならないので、地域を昔から守ってきた人たちを守るためのルールを作るべき。しかもこれは日本全体の課題」だと述べた。
また、王子氏からは冬だけ盛り上がっているので人的資源をほかの地域とシェアできないか、という意見が出た。実際、白馬でも沖縄の恩納村と人材の交流を模索しており、ワーキング・ホリデーで日本に来ている外国の人たちに夏は恩納村、冬は白馬で働いてもらうような考えも生まれている。バックカントリースキーの専門家からは白馬はポテンシャルの塊だと言われており、課題解決に目途がつけば、コロナ後の白馬が国際的な山岳リゾートとして国際的に知られる存在になっていても不思議ではない。
最後の茅ヶ崎を拠点とするTotal Beach Sportsは、ビーチを活用したスポーツ事業を核にインバウンドを招こうと考えているが、専門家からはインバウンドをいきなり取り込もうとするよりも、まずはTotal Beach Sportsの代表者がビーチテニスにおける日本の第一人者であり、現在も子どもたちにテニスの指導をしていることから、人の育成をベースとする事業を核の事業として掘り下げてみては、というアドバイスが出た。10月末に茅ヶ崎のビーチで行われたイベントに参加した王子夫妻からも日本のビーチは欧州のように大人向きではないため、富士山、烏帽子岩、江の島が見える茅ヶ崎の場所柄だけに、大人の視点を考えてみては、という提案を行った。
それぞれの強み、弱みが見えた中間発表会。需要拡大という目的があるため、今後はどこで収益をあげ、単価の上昇をどう行うのか、といったことを連携やモノとサービスの掛け合わせなどで、考えていかねばならない。1月末の最終報告会まで残された時間は多くはない。