雄大な北アルプスの峰々に抱かれた長野県の白馬村では、村民の約3割が圧倒的な自然を生かした観光業に従事している。なかでもスキー産業は100年以上の歴史を誇りオリンピックの舞台にもなった。しかし白馬村の観光客数は、ウィンタースポーツ市場の低迷もあり、1994年をピークに減少の一途を辿った。村は状況を打開しようと観光局を設立し、15年程前からインバウンド拡大にも取り組んできた。その成果もあり多くの訪日客が白馬を訪れるようになった(JAPOW1.0*)。しかし、需要の多くが冬季のみ白馬で事業を行う外国人事業者に流れ、地元事業者への恩恵が少ないという新たな問題が生まれた。そこで地元事業者は、トップ・アスリートをエバンジェリストに白馬ファンを拡大していく新たな成長戦略「JAPOW2.0」を立案、実行することになった。本事業は、エバンジェリストを通じて白馬のカルチャーやライフスタイルを発信。共感するファンを白馬村と直接つなぐことで、彼らのライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を高め、高単価顧客にしようとする戦略だ。従来の旅行代理店頼みではなく、地元事業者、トップ・アスリート(エバンジェリスト)、白馬ファンがともに潤う白馬の新たなエコシステムを構築しようとしている。
白馬村観光局は、国内スキー客急減の対応策として白馬の広大なバックカントリーエリアの魅力を海外に発信し、2017年にはフリーライドの世界選手権(FWT)を実現した。バックカントリースキーという資源を世界最高レベルで提供し、そのマーケティングも自ら行おうとするところがこの事業のユニークで先進的な点である。また、それが高単価顧客の誘導にもつながっている。一般的に誘客は旅行会社に委託するところだが、白馬村はトップ・アスリートを通して直にファンと向き合い、呼び込む。加えて、ファン獲得に欠かせない迫力ある映像制作まで自ら乗り出そうとするなど試みは野心的だ。狙うターゲットには、世界最大の市場である欧州と北米、そして北京五輪を控えスキー熱が高まる中国に照準を合わせ、今回は、4つの事業を進めた。ひとつは、外国人がJAPOW(Japan Powder Snow)と呼ぶパウダースノーが堪能できるバックカントリースキーの安全面の課題解決。2つ目がFWTに参加するトップ・アスリートなどのファン獲得の仕み組みづくり。3つ目が、スキーやマウンテンバイクなどの映像制作スキルの地域事業育成、最後にFWTファンに向けた動画配信だ。
外国人専門家は3つの分野で起用した。バックカントリーの魅力や安全管理の課題では、先進地であるスイスからFWTを立ち上げ育ててきたニコラス・ヘールウッズ氏と30年以上の山岳ガイド歴を有するディヴ・エンライト氏を起用。両氏からFWTの運営やガイドの在り方、火薬を使った雪崩管理などについてアドバイスを受けた。また、外国人選手などのファン化を促進する施設やサービス面については、写真家、ブロガーである中国出身のビリー・バイ氏を起用。地元事業者の施設の内装や部屋の広さ等についてのアドバイスを受けた。魅力を伝える映像制作ではショートフィルムやCMの制作を行うトム・W・キャリー氏を起用。大会の実況を日本語だけでなく親近感のある英語で実施するためにローカルな情報を外国語でも発信できるコメンテーターの育成を行い、大会以外のサブコンテンツの作成についてもアドバイスを受けた。また、動画配信では、出場選手のSNS合計フォロワー300万を有するFWTコミュニティを活用したプロモーションで、総映像再生回数56.5万回と目標を超える実績を達成することができた。今後もこれらの事業を軸に「白馬ファン」を世界中につくり、世界に通用する山岳リゾートを目指していく構えだ。