TOTTEOKI STORIES

2020.11.06

中間発表会 パート2 「カルチャー」

「TOTTEOKIプロジェクト」の中間発表会で行われた分科会のひとつ「カルチャー」グループの分科会は、一般社団法人雪国観光圏、株式会社パルコ、株式会社いちきゅう蓼科、そして一般社団法人日本ファッションウィーク推進機構の4事業者と、海外富裕層向けのオーダーメードの旅を提供するWindows to Japanのウェンディ・リー氏、インバウンドPRに特化したマーケティング会社を経営する道越万由子氏の2人が専門家として加わった。課題を持ち寄りながら、「場の価値をどう磨くか」「地域の強みをいかに商品にするか」「プロモーションのやり方」などをテーマにディスカッションを重ねた。

世界に通じるニッポンの田舎

「コロナ終息後のインバウンドは地域ならではのストーリー性があるところでなければ勝てない。今はその準備」というのは雪国観光圏の井口智裕氏。世界でも珍しい豪雪地で縄文時代から続く伝統的な文化をインバウンド拡大のベースに置き、2008年のスタート以来12年間、地域が生み出すストーリーを磨いてきた。インバウンドが戻ってきたときにこの価値が強みになるからだ。では、価値はどこに蓄積されるのか、それが「体験」「食事」「宿泊施設」の3つ。そしてそのすべてをストーリーでつなぐ。
これまで雪国観光圏のメンバーは多くの国をともに旅し、3つのいずれもが高い水準でなければお客さんは来ない、ということを学んだ。本プロジェクトの中でもその実行力と高い理念は目立っており、アドバイザーのウェンディ氏も、「縄文時代から続く雪と関わってきた文化を全面的に打ち出したのは素晴らしいアイデア」と認める。雪国でありながら雪に頼らずに需要を掘り起こした面と、通年で勝負する、経営的な面を評価しているのだ。

地域のストーリーづくりは、トレンドの面からも理にかなっているというのは道越氏。「日本に来られないことも原因の一つだと思いますが、これまで有効だった“これが美味しい”、“美しい場所”といった発信が、いまはインバウンド、特に欧米豪の方たちに響かなくなっています。むしろ、土地の歴史や文化などストーリー性のあるもの。さらには癒しを感じるものに良い反応を示します」と需要の変化を語る。新型コロナ以降、自治体の7割くらいが観光面の発信を止めたが、発信を継続した地域はファンを獲得している。そのため道越氏は雪国観光圏でも「デジタルコンテンツの磨き上げも行っていただきたい」とアドバイスした。

ウェンディ・リー氏

続く日本ファッションウィーク推進機構は、従来のリアルで行うファッションショーだけでなく、オンライン上でデジタル化し、リアルとデジタルの融合した新たなフォーマットをつくろうとしている。デジタルで時間と空間を超え、新たな技術で日本のファッションブランドだけでなく、素材の産地の魅力を発信していこうというのだ。10月にはファッションショーを敢行。残念ながら新型コロナによる配送の問題から海外への販売は断念したが、スポンサーでもある楽天を通じてECでの反応を待っているところだ。

今回のファッションショーではライブ配信を行ったが、累計でのアクセス数に比べ、ライブ視聴数が少ないという課題が出た。この問題に対し「フェイスブックやインスタグラム、YouTubeをうまく使った事前告知が重要だと思います。なかでもターゲティング広告は世界中に配信ができて、『欧米、とくにパリのハイブランドが好きな人たち』のような狙った国の狙った属性に対して配信ができるので、事前告知にはよいのでは」と道越氏はアドバイスを行う。素材の面では、岡山のデニムや尾州のシルクなど地域素材の価値向上には何が必要か、という質問があがると、ウェンディ氏が世界とつながっていることは、インバウンドにとっては大きな魅力だと一つの例を挙げた。

ウェンディ氏は京丹後のちりめん職人に会いに行くという人気のツアーを行っている。そのなかのひとつは螺鈿織の技法に特化して、世界のファッションブランドとコラボレーションを行っている工房だ。「提供している生地が希少で、一着1500万円ほどもするショーに使う生地や、ひとつ800万円の時計のパネルに使われています。匠の思いや職人のこだわりといった話にも感動しますが、日本のこんな田舎から世界のファッション界をリードするものが出ていることに外国人観光客はとても驚くのです」と、今後のファッションツーリズムの広がりを感じさせた。

「いいね!」をいかにビジネスにつなげるか

伝統工芸だけでなく、現代のものづくりにスポットを当てているのが、いちきゅう蓼科が代表を務める長野の諏訪地域。地域のJC(青年会議所)が中心になり諏訪で盛んな精密製品などの製造業での産業ツーリズムを考えている。ターゲットは、シリコンバレーのエンジェル投資家や6Gなど先端技術を持つ台湾の事業家たち。彼らにファミリーで来てもらい、親がビジネスマッチングや共同での実験などを行っている間、家族は自然豊かな諏訪で観光をしてもらう。モデルにするのが同じく内陸の湖の街、米国のソルトレークシティ。あちらはすでにシリコンバレーからスタートアップが少しずつ移ってきているそうで、こちらでも諏訪湖の湖畔から新たなビジネスが立ち上がるイメージはできている。

とはいえコロナ前でも、諏訪を訪れる約300万人いる来訪者のうちインバウンドはほぼゼロ。今回狙うターゲットのボリュームも小さいなど課題は多い。アドバイスを求められたウェンディ氏は、「産業ツーリズムは他に例が少なく、非常におもしろいと思います。ただ、ターゲットとしている投資家は年間数組しかいらっしゃらないと思いますので、実際のビジネスのつながりでなくても地場の産業を幅広く見てもらうことが大事なのではないでしょうか」と、間口の広げることを勧める。また、ものづくりを観光コンテンツにすると必ず体験がついてくる風潮については、「子どもや修学旅行生はいいのかもしれませんが、知的好奇心の高い大人には時間の無駄」と受け入れ側とインバウンドのミスマッチを指摘。その上でウェンディ氏は、茶筅職人を訪問する人気のツアーの例を挙げた。そもそも海外ではお茶を点てないので茶筅をつくる体験はない。人気の理由は先ほどの丹後ちりめんの職人同様、匠の精神、クラフトマンシップを知りたいからだ。竹の切り出しから、細かな細工の意味まで、職人の話を聞き、その後の茶道体験の時に茶筅にまつわるストーリーやクラフトマンシップの奥深さに触れ、心を動かされるという。
雪国観光圏の井口氏も、体験というのは観光客向けのアレンジのような薄っぺらい話ではないという。「地獄谷のスノーモンキーは野生だからいいのであって、飼いならされていたらがっかりする。それと同じで、地域の生態系を守るうえでも産業を担う人には誇りを持っていて欲しい」と、観光の役割は地域の持続可能性を担うことでもあると訴える。

プロモーションのアドバイスを求められた道越氏は、「海外の方は匠の技術に興味があるのでSNSを使って定期的に発信するといいと思います。SNSであれば一過性ではなくメディアを作っていけます。自分たちのコンセプトを長期的に発信していきながらファンをつくれます」という。フォロワーをつくり、エンゲージを深めていく、そんな道筋が見えてくる。

最後に話すのが、渋谷パルコ1周年を契機に海外への情報発信を強化するパルコだ。SNS上で10万人ものフォロワーを抱えるパルコは、インスタグラム、フェイスブック、ウェイボーを運用しており、インスタはフォロワーの9割が国内、フェイスブックの発信は海外向け、そしてウェイボーは中国に向けて発信している。しかし、購入の分母であるSNSのファン数と売り上げに乖離ができているという問題を抱える。

SNSからECへの流入について尋ねると、「少しずつ見えてきています。越境ECになっているので、特にインスタグラムが海外のファッションサイトのニュースに載るタイミングでパルコの限定商品の売り上げが伸びています」(パルコ)。道越氏は相乗効果をおこすためにも、「インスタであれだけファンがいらっしゃるので、海外向けにライブ配信やオンラインツアーなどの動画を使ったコンテンツを増やしていくと、熱いファンがつき、ECとの相性も良くなるのではないかと思います。後は、動画を見た人を追いかける広告で、さらなるPRと購入につなげていく動きが重要なのではないでしょうか」、と戦略的な仕組みが重要だとアドバイスした。

第一のステップとしてはフォロワーになってもらい。その中から熱いファンを獲得。その後はファンとのエンゲージを深めていく。そのためにはSNSに載せる写真がキレイなだけではダメでストーリーが重要になってくるのは言うまでもない。