TOTTEOKI STORIES

FINAL SESSION コロナ後、日本のインバウンドをけん引する存在として ファイナルセッション
2021.01.26

〜 ファイナルセッション 〜

 事業報告会の最終セッションは、海外インバウンド需要拡大プロジェクトの総まとめとして「アクティビティ」「カルチャー」「クラフト」各グループの代表者による振り返りを行ってもらった。その振り返りと各グループの今後の展望に対して、第3部のディスカッションに引き続き登壇したやまとごころの村山慶輔氏と、経済産業省クールジャパン政策課の観光担当調整官の渋谷哲久氏に感想とアドバイスを求めた。

コロナ禍でも伸び続けるネイチャー市場

 アクティビティグループの代表として登壇したのは、白馬村観光局の福島洋次郎氏。自然相手のイベントはシンプルだが、常にリスクに備えなければならないと福島氏は言う。リスクとは例えば、天候に左右され、スノースポーツでは雪崩や遭難の危険性もはらんでいるところ。今回白馬の中心事業として考えたバックカントリースキーがまさにそうで、世論の理解を得ていかなければならない難しさを感じたという。今年は新型コロナウイルスの感染拡大もあり、バックカントリーを滑走するフリーライドの世界大会は開催できなかったものの、日本のトップクラスのアスリートで開催した大会を行った。大会の開催はリスクある決断だったが、大会をライブ配信したところ、世界大会の開催時と同じ10万人もの人々が視聴した。福島氏は、「日本のパウダースノー、白馬のブランド力が伝わっている成果ではないか、なにより白馬の目指す姿を共有する人が増えたことが良かった」と振り返った。
 白馬の振り返りに対し村山氏は、ネイチャー、広義でいうアドベンチャーツーリズムの先行きについて「アドベンチャーツーリズムはコロナ下でも伸びており、市場規模は70兆円、平均滞在日数も14日間と拡大しています。白馬に関しては、視聴した10万人を瞬間風速で終わらせるのではなく、コミュニケーションを続けていくことが大事」と、アドバイス。同様に渋谷氏も「22年に北京オリンピックを控えていることもあり、2025年までに、中国国内のスキー・スノーボード人口を5千万人に、さらにウインタースポーツ関係者を3億人にするという計画を打ち出している。中国や東南アジアを含めた近隣諸国の需要が増えていることから、環境、雪質などでアドバンテージのある日本が地域一丸となって需要を取り込んでいただきたい」と述べた。

  • 白馬 / 福島 洋次郎氏
  • 白馬 / 後藤 陽一氏
  • 村山 慶輔氏

世界の潮流を読み解き、流れに乗る

 続いて発表した「カルチャー」グループは、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW)とパルコのクールジャパン的側面と、雪国観光圏、諏訪のいちきゅう蓼科の文化的なツーリズムにわけることができる。グループの代表者は、ファッションショーにデジタルを融合させ、ECも含めたデジタル化を推進したJFWの今城薫氏が務めた。今城氏は、「衣・食・住のすべてがカルチャーでありファッションで、日々の食事や飲みものの選択もファッションなわけです。今回の事業で感じたのは、いつも発信点としての東京の文脈で話をさせていただいていたのですが、ものづくりや新進気鋭のデザイナーを支えていたのは尾州のウールや岡山・広島のデニム、奄美大島の泥染めなどの全国各地の約200か所の産地でした。世界のデザイナーにも足を運んでほしい技術がありますので、今後は東京だけでなく産地へのインバウンドも幅広く取り組んでいきたい」と、展望を語った。
 今城氏の話を受けて、渋谷氏は3つのポイントを挙げた。まずは、デジタルを活用したファッションショーや越境ECなど、ニューノーマルな時代に必要不可欠な「デジタル化」の推進。次に、仕組みをつくったはいいが売れなければ意味がないので、マーケティングやプロモーションによる「消費の拡大」。さらには、文化は継承し、ブランドを守っていかなければならないことから「人材育成」が重要だと話した。「ファッションやアパレルは厳しい状況でしょうが、デジタルを取り入れたショーによって認知は広がっていくと思いますので、チャンスと捉えてすそ野拡大と消費拡大につなげていただきたい」と結んだ。
 文化的ツーリズムに関して感想を求められた村山氏は、先駆的な取り組みとして日本ガストロノミー学会の行う“アグリーラブ”を挙げ、「形が悪く商品にならない(アグリーな)食材を使って、ラルフ・ローレンなど世界的なブランドと協力して新たなプロダクトを作り、食のサスティナブルを目指すプロジェクトで、世界的なサスティナブルの流れにおいては、こうした取り組みを行う日本に行ってみようという機運も高まる」と述べた。

  • JFW / 今城 薫氏
  • 渋谷 哲久氏
  • UNA / 田村 あや氏
  • 池嶋 徳佳氏

ターゲットと深く、長くつきあい、ともにつくっていく

 最後の「クラフト」グループの代表には、九州全域でクラフト体験を勧めるUNAラボラトリーズの田村あや氏が登壇。振り返りでは、大きな影響を与えた新型コロナについて話した。「新型コロナの影響によって旅行業界だけでなく、クラフトの産地も大きな打撃を受けました。一度途絶えてしまうと、なかなか復活させるのが難しいクラフトの世界で、我々がやろうとしているツアーに可能性を見出してくれる方も多く、厳しい状況ながらも意義を感じました。その一方で実務は、感染拡大もあり地域によっては私たちも含め都市部の人を迎え入れるのは難しいと言われることもあり、意識の違いを痛感した半年でした」という。 思ったことができなかった悔しさがにじむ田村氏だったが、逆に渋谷氏は、「モノがあることもありますが、ツアー造成や展示会、バーチャルツアーにムービー作成とクラフトグループは多くの施策を試されていました。今後も世界をターゲットにできる」と期待を語った。その上で、「富裕層」「本物志向」「ストーリー性」「地方創生」の4つをキーワードに掲げ、不特定多数ではないが、コミュニティへの発信や口コミによって親和性の高いターゲットに、価値の高いものを購入してもらうような取り組みを続けていただきたいと、感想を述べた。

コロナ後、羽ばたくために今できること

 アフターコロナについて聞かれた村山氏は、「コロナがいつ収まるかは誰もわからないが、確かなことが2つあります。ひとつは観光に一網打尽はないことです。地道にセグメント分けし、ターゲッティングした顧客を満足させていくしかありません。もうひとつが、デジタルの重要性です。その上で高付加価値化とリピーターの育成を目指すべきではないでしょうか。高付加価値化については、磨き上げは大事ですが、それ以前に今持っている本来の価値が外国人顧客に対してしっかり伝わっているか検証したほうがよいかもしれません。その上での磨き上げですね。そしてリピーターの育成については、プロモーションによって見込み客が広げられたのではないかと思いますので、ぜひ彼らと継続的なコミュニケーションを取り、来てもらう工夫を行うことで、コロナ後に備えていただきたい」とアドバイスを送った。
 最後に総括を求められた渋谷氏は、コロナ禍において施策が制限される中で柔軟に対応した事業者をねぎらう一方で、外国人の専門家の意見を取り入れ、効率的、効果的に商品やサービスを磨き、プロモーションを行う支援事業であったことを踏まえて、プロジェクトで得た人脈や他の取り組みを参考に日本のインバウンドのけん引役になっていただきたいと期待を述べて本事業の締めくくりとした。

登壇者

TOTTEOKIプロジェクト メンバー
一般社団法人白馬村観光局 事務局長 福島 洋次郎氏
株式会社Pioneerwork 後藤陽一氏
一般社団法人日本ファッション・ウィーク
推進機構(JFW) 
ディレクター 今城 薫氏
株式会社UNAラボラトリーズ 共同代表 田村 あや氏

渋谷 哲久氏
経済産業省 商務・サービスグループ
クールジャパン政策課観光担当調整官

村山 慶輔氏
株式会社やまとごころ 代表取締役

池嶋 徳佳氏
ファシリテーター / 株式会社いけじま企画