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CRAFT サスティナブル×ツーリズム 時代の文脈にいかに乗るのか クラフトグループ・セミナー
2021.01.26

〜 第3部 〜 テーマ「クラフト」

 第3部の「クラフト」グループの成果発表の後に行われたセミナーでは、インバウンドビジネスの専門家であるやまとごころの村山慶輔氏、富裕層ビジネスに詳しいルート・アンド・パートナーズの増渕達也氏、慶應義塾大学経済研究所インバウンド観光総合研究所顧問の鶴本綾子氏をゲストに迎え、いけじま企画の池嶋徳佳氏をファシリテーターに、「クラフトツーリズムによるコロナ後の反転攻勢」について話し合われた。池嶋氏は前半をクラフトツーリズムの動向や課題について、後半を狙った顧客層にどうアプローチするか、海外の富裕層をいかに地方に呼び込むかといったテーマでセッションはスタートした。

持続可能な旅に必要な「環境」「社会」「経済」

 最初に現在のクラフトツーリズムのトレンドについて話を振られた村山氏は、今後のキーワードとして「サスティナブル×クラフトツーリズム」を挙げた。村山氏が言うには、近年、観光も量から質へと変わってきており、ある調査によれば72%の旅行者がサスティナブルな施設や目的地を選んでいるという。そのため旅も「環境」、それから地域のコミュニティや地域文化、クラフトの文脈で言えば技術の継承などが含まれる「社会」、そして稼ぐことを意味する「経済」の3要素を重視した持続可能な旅へと移っていっているという。
 その例として村山氏は先行するフィンランドのケースを紹介した。「サスティナブル・フィンランド誓約というものがありまして、オフシーズンに滞在する、地元の食やデザイン、工芸品を楽しむといった10のヒントが掲げられています。フィンランドの有名なデザイナー、アルヴァ・アアルトの“古いものは新しく生まれ変わりはしないが、完全に消え去ることもない。そして常に新しい形態に修復することが可能だ”という言葉があるのですが、良いデザインのものを長く大事に使う、というフィンランドの文化は日本人にも共通していますから、日本でもうまく浸透するのではないでしょうか」と説明した。日本でも「サスティナブル×クラフトツーリズム」の先進的な事例は生まれてきており、有田焼の幸楽窯の仕掛品をトレジャーハンティングといって自分のお気に入りを探してもらう取り組みを紹介した。さらに村山氏は、サスティナブルな旅のその先、再生・改善を意味する「リジェネラティブトラベル」も、近くに来ているという。新しいものだけでなく、古いものを尊重し旅行者が来れば来るほど旅先がよくなっていく、そんな新たな概念が広まりつつあることについても話は及んだ。

  • 池嶋 徳佳氏
  • 村山 慶輔氏

語学力だけでは超えられない“壁”にどう立ち向かう?

 ここでUNAラボラトリーズから、モニターツアーの中で地域の工芸品の歴史や文化といった深い話をしたいのだが、説明しようにも言葉の壁があるという、第2部のディスカッションでも挙がった同じ悩みが出てきた。アドバイスを求められた村山氏は「文化的な背景や職人さんの思いを伝えるのは大切です。まずは職人さんなどが日本語でしっかり伝えること、きちんと翻訳してく出さる方を確保することが大事だと思います、とアドバイス。ただ、なかなかいない翻訳者を探す場合の例として有田町を挙げ、地元に住み有田焼を愛する外国人に白羽の矢を立てて、ガイドの教育を受けてもらった話を紹介した。さらに海外と日本を結ぶメディアやコンサルもいるのでそういった企業を利用するのもよいのではないか、というアドバイスを行った。

photo:Koichiro Fujimoto

言葉にこだわると、解決策も見えてくる

 後半のテーマはクラフトツーリズムにおいて海外富裕層をいかに取り込むか、という点で話を振られた増渕氏だったが、話は英語の語源についての話からはじまった。
 「漢字であれば言葉のもともとの意味も日本人に伝わりやすいのですが、英語になると難しいですよね。でも、派生元の言葉を考えるとおのずと紹介の仕方や売り方がわかってくるのです。例えばクラフトの語源、あるいはもとになった言葉はアクティビティやアクター、アクティブといった動きを表すアクトです。同様にラグジュアリーは明るさの単位であるルクスが語源で、明かりのない時代でもその存在がわかる、目立っているといった意味になります。ですから豪華な、派手なという意味で使うと間違った使い方になってしまいます。そういった意味で言葉にこだわるのは大事なことだと思っています」という。
 では、クラフトの語源である“動き”をビジネスの文脈に落とし込むとどうなるのか。増渕氏は、自身が関わる兵庫県の豊岡の例を挙げた。豊岡はカバンの産地として知られているが、カバンを作る編む技術は柳行李などの柳を編む細工がもとになっている。豊岡に訪れた外国人に自分自身で数分間だけ編んでもらい、その編んだ部分も入れ込んだカバンにしたところ、大変評判が良かった。これこそがクラフトがアクトを語源とした言葉だからだという。
 また、富裕層に関することについては、箱根のある旅館の例を挙げた。「旅館のオーナーの個人的な趣味が伊万里焼の蒐集で、定期的に伊万里焼を買い付けて、旅館の客室やロビーに飾られ、食事の時の器としても使用されていました。すると、これは美しい、どこで買えるのか、といったことを尋ねられるそうです。先ほどもガイドの重要性が話されましたが、この場合は女将さんや仲居さんが富裕層と伊万里焼を結ぶガイドで、こういったように富裕層とのチャネルは意外とあるものです」と増渕氏はいう。

  • 村山 慶輔氏
  • 増渕 達也氏
  • 鶴本 晶子氏

その国の日本感は、教科書に聞け

 もうひとりのゲストである鶴本氏は、新潟県の燕三条の加工技術で富裕層を迎えており、「コンシューム(消費すること)からパトロネージュ(支援すること)」を提唱して世界中のハイエンドな顧客と匠の技をつないでいることを紹介した。
 最後に、クラフト産業に裨益するようなターゲティングについて村山、増渕両氏に話を聞いた。増渕氏は、なかなか人と人とが会えないなかで、無料でできる事としては世界の教科書で日本がどのように紹介されているのかを見るといいと勧める。「例えばベネズエラでは宮大工のことを教えています。釘を使わずに建築を行うといったことを学ぶようで宮大工に会いたい、そして釘を使わないイスをつくってもらいたい、といったリクエストがありました。同じくイスラエルは国民すべてに兵役があるのですが、その時に日露戦争について学ぶそうです。当時、戦費を賄った戦時国債をユダヤ系のファンドが買ったこともあり、東京に来たら必ず明治神宮に行きたいと言います。海外の方が、決まった場所を訪れるのには、必ず理由がありますから、その理由を知れば打つ手も見えてくるはずです」とアドバイスを送った。最後は村山氏が「波佐見は台湾の人に人気があるのですが、それは波佐見が有田から独立して頑張っている姿が台湾と中国の関係に似ているから応援したくなると言われています。歴史や立ち位置による共感ですね。もう一つが、台湾、香港のカフェに食器を置いていただくなどしてキーパーソンから広げていったことです。親和性のあるキーパーソンとつながり、器好き、クラフト好きとおなじ価値を大事にする人とつながることで、お金を抜きにした関係を築いている例も増えています」という好例を紹介してセミナーをまとめた。

登壇者

村山 慶輔氏
株式会社やまとごころ 代表取締役

増渕 達也氏
株式会社ルート・アンド・パートナーズ 代表取締役

鶴本 晶子氏
慶應義塾大学 経済研究所 インバウンド観光総合研究所 顧問

池嶋 徳佳氏
ファシリテーター / 株式会社いけじま企画