TOTTEOKI STORIES

ACTIVITY 世界につながる地域を“ノアソビ”でつくろう アクティビティグループ・セミナー
2021.01.26

〜 第1部 〜 テーマ「アクティビティ」

 第1部として行われた「アクティビティ」のセミナーでは、これからの時代に無視することのできないSDGs(Sustainable Development Goals・持続可能な開発目標)をテーマに取り上げた。ご存じのようにSDGsは2030年までに持続可能な世界をつくるため、国連で採択された開発目標。地球温暖化を見据え世界各国が決議したパリ協定とともに経済活動にも大きな影響を与えている。自然を地域資源として事業活動に利用するネイチャー関連の事業者にとっても生態系や限られた資源への配慮が求められるため、真正面から向き合わなければならないテーマのひとつだ。とはいえ、なにから始めればよいのか。何しろ、環境から教育、働き方や社会の在り方まで17もの多岐にわたるゴールがある。
後藤 健市氏

日本人の感性を取り戻す

 「野遊びは、豊かな自然と四季を身近な存在として戯れ、遊んできた日本の文化であり、生き方だ」と語るのは、一般社団法人ノアソビSDGs協議会の副理事長でスノーピーク地方創生コンサルティングの会長を務める後藤健市氏。
 後藤氏の言うこの「野遊び」というキーワードこそがSDGsとインバウンド需要の拡大といった経済活動をつなぐ言葉だ。野遊びという言葉は、自然や景観、文化、歴史を意味する「野」と、豊かな時間を過ごす仕掛けという意味の「遊び」からなる。花見や月見、紅葉狩りなど、自然を楽しみ、その恩恵を与えてくれる自然を大事にする感性といえば伝わりやすいかもしれない。後藤氏は、その日本人が本来持っている感性を取り戻すことで、SDGsの目指す世界を実現させようとノアソビSDGs協議会(以下、NSC)を発足させた。

経済を軸にした自然から、自然を軸にした経済へ

 NSCは、組織の名前にある通り“野遊び”が活動のベースであり、野遊びを地域課題の解決手段としてもつかっている。環境省がSDGsを取り入れて策定した経済成長と地域課題解決を両立する「地域循環共生圏」とも連動し、経済活動とも相性のいい活動でもある。今回のセミナーには後藤氏のほかNSC理事の小原壮太郎氏、赤崎一浩氏が参加し、同じく理事の山本聖氏をファシリテーターに迎え、野遊びによる地域産業の振興、コミュニティの醸成、さらには自然に触れ合うことで人間性の回復にもつながるといった話がなされた。
 後藤氏はSDGsを、「地球を豊かにし、世界をハッピーにすることだ」と捉えている。その上で、文明発達型のまちづくりによって自然と人のつながりが薄れるいま、豊かな自然のなかで豊かに暮らすことがSDGsにつながり、自然と生きることで人間の原点に戻り、人間性の回復にもつながることだと説明する。また、豊かな自然を取り戻し、その自然をスキーやキャンプ、アウトドアなど経済活動において利用し、密接に関わりあうことは地域の維持、発展の上でも重要なことだと考え、地域産業の振興のための具体的なサポートをはじめている。

  • 小原 壮太朗氏
  • 赤崎 一浩氏
  • 山本 聖氏

ウィークポイントだった資金調達にESGの追い風

 主要なサポートは5つ。まずはコンサルティング。自然の中でのアクティビティに対するサポートをはじめ、食を通じてその土地の文化や歴史を知るガストロノミー。そして、日常から離れた非日常空間でリラックスし自分を見つめ直す、新しい旅の形であるリトリートの相談にも乗っている。次に、ブランディング。土、水、空気といった環境の質の高さを景観など自然環境の素晴らしさなどの評価基準をつくり、地域のブランディングに生かそうとしている。3つめは電気自動車普及協会や森林組合、農協、漁協など、SDGsの観点から連携すべき組織とのマッチングを行う。4つめは地域のブランディングや人材育成、情報共有などのセミナー事業などを行うフォーラム活動だ。そして最後の、もっともユニークな取り組みがファンディングだ。利益の最大化を求める従来の金融スキームであれば、社会課題を解決するような活動に対しての積極的な投融資はむずかしいが、近年拡大してきたESG投資や基金を活用したあったかいお金を活用して事業チャンスを広げようとしているのだ。その橋渡しをNSCが行う。コロナ禍でリモートワークが当たり前になりつつあり、密にならない地方の魅力が再確認されてきているいまこそ、都会からの受け皿としての需要も増しているという。
 地域の産業振興が地域外への野遊びの魅力であるならば、地域内への効果が地域コミュニティの醸成だ。理事の小原氏は、埼玉県の小川町でオーガニック野菜の栽培によるオーガニックタウンのまちづくりを行っているが、古い歴史を持つ町だけにしがらみも多く、議論をまとめるのにも一苦労だったという。しかし、町の共有の財産である自然をキーワードに活動することでコミュニティの結びなおしに成功したという。SDGsの17番目のターゲットも“パートナーシップで目標を達成すること”であり、地域の課題解決はそのままSDGsにつながっている。

“私が、私は”から“私から”の発想へ

 こうした取り組みをすでに実践している場所もある。後藤氏の地元北海道の十勝地方にある芽室町がそうだ。新嵐山スカイパークをメインフィールドに、町全体を野遊びリゾート化している。キャンプ場ではグランピングも楽しめ、地域の豊かな農産物やワインを利用した屋外ディナーも楽しめる。ホテルやリゾートを誘致するのではなく、いまあるものとアウトドアギアを最大限に利用しながら、景観を含め地域資源を活用し、世界広しといえどここでしか味わえないものを提供することで差別化を図ろうとしている。
 後藤氏の言葉を借りれば、こうした動きは「文明の街づくりから文化の街づくり」への変化といえる。これまで地方には潤沢にありながら生かされてこなかった森里川海を新たな組み合わせで優れたコンテンツに変えれば、地域の活性化は可能だ。「地域の活性化は、国内外を問わず、新たな人とものの流れを創出することです。そしてその舞台は何もないと言われてきた地方です。真に豊かな場所は野遊びの宝庫である地方なのです。しかし、そのためには自然と人の関係、人と人との関係を新たに結び直し、わざわざ人が訪れる場所にしていかなければなりません。そうして生まれた場所同士が野遊びのいい仲になって連携していくのです。いい仲が生まれるのが田舎ですからね(笑)。ぜひ、野遊びイイナカ・リゾートアクションを起こしましょう。そのためには、”私が、私は、私で、私に”ではなく“私から”であることが重要です。場所もそうです。芽室から、十勝からが重要です。日本各地から現場アクションを仕掛けて連携することで、SDGsが考える世界をハッピーにすることができるのではないかと思っています」と、後藤氏は地域の連携を訴えた。

登壇者

一般社団法人ノアソビSDGs協議会(NSC) 
副理事長 後藤 健市氏

株式会社スノーピーク 取締役
株式会社スノーピーク地方創生コンサルティング 
代表取締役会長
株式会社デスティネーション十勝 
代表取締役社長
野遊びリーグ 理事長

NSC理事 小原 壮太朗氏
一般社団法人the Organic 代表理事
全国有機農業推進協議会 理事
環境省 つなげよう、支えよう森里川海
アンバサダー 理事

NSC理事 赤崎 一浩氏
産経新聞社新プロジェクト本部副本部長兼
コンシューマー事業部長

NSC理事 山本 聖氏
ファシリテーター / 一般社団法人地球MD