九州はかつて海外との窓口であったこともあり、織物、器、木工などの伝統工芸、お茶や発酵食品などの生産が盛んである。しかし、競争の激化や担い手の高齢化などの問題は九州でも例外ではなく、事業の維持、継承を難しくしている。その一方で、独自のスタイルと哲学を持つ事業者も多く、ツーリズムの資源としてのポテンシャルを秘めている。欧米諸国では、こうしたスタイルと哲学をもつ生産者をめぐるクラフト・ツーリズム、アート・ツーリズムが観光事業の一形態として確立されていることから、これらの支持層が九州に目を向けることは十分に考えられることであり、新たなツーリズムの誕生は地域経済の先進モデルと期待されている。
本コンソーシアムの参加企業の中には、これまで独自の活動でツーリズムの造成や情報発信を行ってきた企業もあるが、その活動はあくまで点であり、九州全体を周遊するツーリズムには至っていなかった。さらに九州全体の魅力も発信できていなかったことで、欧米豪といった需要先での認知は低かった。今回のコンソーシアム構築により、各企業・団体のもつケイパビリティと(株)UNAボラトリーズのノウハウを融合することができれば、地域の魅力を面として発揮させることができ、域内の新たなツーリズムを創造することができるはずだ。
本事業で狙う顧客は、欧米のラグジュアリー層よりもテキスタイルや食器好きの50~60代以降の女性、もしくは30~40代のクリエイティブな層をイメージしている。加えて、コロナ後、早いタイミングで需要の回復が期待できる台湾、シンガポール、香港などの日本文化やクラフトに興味のある層も対象とした。プロジェクトへのアドバイスを行う専門家には、オランダの「POP-UPCITY」を起用し、事業全体の助言を受けた。2008年にユルーン・ビークマン氏が創業したこの団体は、欧州各地のクリエイティブ・コミュニティと幅広いネットワークを持ち、WEBも運営、同社のフェイスブックは5万6千人のフォロワーを有している。
本年度は、体験コンテンツの造成とモニターツアーの実施。展示会・ヴァーチャルツアーの実施。そしてプロモーション素材の開発を目標とした事業を行った。体験コンテンツはPOP-UPCITYからのアドバイスを受けながら、地元で採取された土や釉薬を使い土地とのつながりを強く打ち出す「龍門司焼(鹿児島)」の体験や天然染料に特化し古着を染め直して新たな1枚によみがえらせる「宝島染工の藍染講座(福岡)」など15のプログラムを造成。併せて、山鹿灯篭(熊本)や名尾和紙(佐賀)など9つの地域で、福岡在住の外国人でモニターツアーを行い、改善点を抽出してコンテンツの磨き上げを行った。
一方の展示会は、ロックダウン中のアムステルダムで実施された。入場制限を設け、予約制で行ったが196人が来場。展示会の様子はオランダ最大の新聞でも取り上げられた。さらに、POP-UPCITYが「KYUSHU CRAFTS CLUB」という特設サイトを開設し、サイトには1,300人が訪れ、SNSでも19,898人にリーチすることができた。加えて、唐津焼の健太郎窯と名尾手すき和紙のヴァーチャルツアーも開催。2日間で49名のオランダ人が参加し、活発なディスカッションが行われた。質問からは、彼らがどのようなところに興味を持っているのかといった発見もあり大きな収穫となった。
プロモーション素材の開発では、フルバージョンとショートバージョンの動画を作成。YouTube等で発信するとともに、海外旅行会社や個人客向けのカタログ、WEBサイトも作成している。1月以降もSNSでの宣伝を続けており、台湾や香港の反応が良いことから、今後は開発したプログラムを顧客のニーズにあうカスタマイズされたツアーをつくっていくことを視野に入れている。