長い歴史と素晴らしい技術を有している日本の伝統産業だが、ライフスタイルの変化や廉価な外国製品に押され、売上は減少、同時に高齢化による事業承継の問題を抱えている。（株）TCI研究所はこれまで、欧米のバイヤー、クリエイター、デザイナー等を招聘し、彼らとともに地域の伝統産業の工房を訪問。海外販路開拓のために商品開発から販路支援までの伴走支援を行ってきた。
この支援を通して感じたのは、外国人の専門家たちが仕事以外の面で、職人やその周囲の人々との出会い、日本文化の体験を楽しんでいたことだ。この体験から、伝統工芸を継承する中小企業や職人たちの新たな価値創造と収益の柱として「クラフトツーリズム」「インバウンド観光客向けの商品開発」の高いポテンシャルを感じた。そこで、TCI研究所の誇る500社以上の伝統産業従事者とのネットワークと海外人材の知見、さらには世界最大の職人専門オンラインプラットフォームの「マイスターストラーセ」とのつながりがあったことから、マイスターストラーセと日本における独占代理店の契約を締結。インバウンド富裕層旅行客向けの「マイスターツーリズム」構築プロジェクトを立ち上げた。普段は会うことが難しい伝統工芸の職人と過ごす機会を創出し、匠の技や彼らの哲学に触れながら、価値ある時間を楽しむ体験コンテンツを提供する狙いだ。
TCI研究所が契約を結ぶ「マイスターストラーセ」は、オーストリアのガラス食器製造「LOBMEYER」社の創業家一族であるクリストフ・ラス＆ニコラ・ラス夫妻が20年以上前に開設した職人専門のオンラインポータルサイト。欧州の伝統工芸の衰退を憂慮し、どうすれば匠の技術や伝統が次世代に受け継がれ、産業復興に繋げられるかを試行錯誤する中ではじめたサービスだった。現在では年間アクセス数480万、優良顧客1万人を超える世界最大の職人オンラインプラットフォームとして成長している。
連携を基盤に、京都市内と丹後地域でマイスターツーリズムのコンテンツ造成と動画作成のため、（株）日本の窓の共同設立者である李文文氏を専門家として起用した。日本の窓はハイエンドのインバウンド専門の旅行会社で、氏からは、「欧米の富裕層は訪問先の社会的課題を学びながら観光する、観光しながら訪問先のコミュニティに貢献するといったコトに関心があるため、そのポイントをついたコンテンツをメニューの一部に組み込むべき」のほか、「数多くの場所を訪れるよりも1つの地域に腰を据えてより深い経験を得るコンテンツづくりを心掛けること」。ＰＲ動画では、「職人が自分自身のライフストーリーを語る場面を増やし、職人の精神性に触れるコンテンツにするべき」とのアドバイスをコンテンツづくりに生かしている。
2021年の1月にはオンライン・オープンファクトリーを開催。マイスターストラーセの会員約4,000名のなかから選ばれたドイツ人やカナダ人50名が参加した。オンランツアーでは、外国語ガイドがつく工房や作業風景をめぐり、実演シーンが好評であること、商品を買いたいといった新たなニーズを抽出することができた。このオンライン・オープンファクトリーを定期的に開催することで、日本の匠と顧客が「事前に知り合える関係」になり、コロナ後の実際の訪問につながることが予想される。これらの成果を踏まえ、2月にはマイスターツーリズム事業のローンチを国内外に周知するためPRイベントを実施、WEBサイトの公開も行った。今後、このビジネスモデルを確立し、全国各地の匠の工房を軸に、歴史的景観や地域の魅力を織り込んだ「マイスターツーリズム」を拡大し、日本の各地域の伝統産業の発展と事業承継に大きく寄与・貢献しようとしている。
